減価する貨幣とは?

2月 9th, 2009のアーカイブ

地域振興券と地域通貨の違い

mig76frの投稿 (2009年 2月 9日)

日本では地域振興券も地域通貨も同じものとして混同されているようだが、両者は似て非なるものである。これについて、説明したい。 地域振興券については、1999年に出されたものが有名だが、これの流れについて考えてみよう。 政府が各地方自治体に、発行額に応じた資金を支給。 自治体はこの資金を担保に、額面1000円の地域振興券を対象者1人あたり20枚発行し各家庭に配布。 各家庭はこの地域振興券で、地元商店で買い物を行う。 地元商店はこの地域振興券を現金化(他の商店で使うことは禁じられているため)。 ということは、地域振興券で起こった経済効果は、結局地域振興券の発行額ぶんでしかない。たとえばこの方式で1兆円バラ撒いても、1兆円以上の効果は望めないのである。また、この地域振興券が来たことで、ふだんは毎月10万円消費する高齢者が12万円消費すれば経済効果はあったと言えるが、消費行動を変えずに余った2万円をタンス預金するなり銀行に預けるなりした場合、この高齢者による経済効果はゼロと言える。極論すれば、日本人全員が余った2万円を預金に回した場合、政府が1兆円以上使っても経済効果はゼロという、本末転倒な事態さえあり得るのだ。 最近この地域振興券が再度もてはやされ、特にプレミアムつきの商品券(たとえば5000円で5500円ぶんの地域振興券を買うことができて、それで地元商店で5500円ぶんの買い物を行い、地元商店はこの受け取った振興券を現金化するというもの)が流行っているらしいが、当然ながらこういうシステムでは500円ぶんの赤字になるため、この赤字を地元自治体が負担する例が多い。結局これでは、単に地元商店にカネさえ流れれば万々歳で、自治体がいくら赤字になろうが知ったことではないという無責任さが蔓延することになる。特にどこの自治体も多かれ少なかれ財政赤字に苦しんでいるときに、このように自治体からカネをたかって地元商店街万々歳みたいな構図を作ることは、倫理的にも経済的にもあまりよろしくないだろう。 地域通貨の場合、この構造自体がだいぶ違う。たとえば、仮に地域振興券を地域通貨のようにした場合には、このような例が可能となる。 政府が各地方自治体に、発行額に応じた資金を支給。 自治体はこの資金を担保に、額面1000円の地域通貨で対象者1人あたり20枚発行し各家庭に配布。 地域通貨を受け取ったA氏は、この地域通貨で地元の八百屋で買い物。 地元の八百屋は地域通貨でレタスを農家から仕入れ。 地元のレタス農家は地域通貨で地元産の日本酒を購入。 地元の酒蔵は地域通貨で原材料のコメを地元の農家から仕入れ。 地元のコメ農家はこの地域通貨でガソリンを購入。 ガソリンスタンドは地域通貨を日本円に交換。 この場合には、A氏>八百屋>レタス農家>酒蔵>コメ農家>ガソリンスタンドと、5回取引が行われていることになるので、たとえば1000円でも5000円の経済効果を地域にもたらすことが可能である。仮に先ほど紹介した1兆円が全てこのような形で循環したとすると、5兆円の経済効果を生み出すことができる(もちろん、八百屋が直接現金化する場合もあるので、その場合には経済効果は1000円だけだが)。地域振興券では1兆円発行しても実際には数千億円程度の経済効果しか出ない場合があることを考えると、大きな違いがあると言えるだろう。流動性の重要性についてはヴェルグルの事例ですでに説明しているが、やはり単にお金をバラ撒くだけではなく、流動性を最大化するような形でバラ撒くことを考えたほうがよいのではないだろうか。なお、バークシェア(米国マサチューセッツ州)やキームガウアー(ドイツ・バイエルン州)など世界的に有名な地域通貨では、現金化の際に手数料を取ることでできるだけ地域内循環を促進している。 あと、現在の法律では「紙幣類似証券取締法」により地域通貨の流通がある程度制限されているが、これについても官庁のさじ加減一つの問題であり、官庁次第ではどうにでもなると言えるだろう。もちろん、あくまでも法律である以上、地域通貨に積極的な政党がこの法律を廃止したり改正したりして、地域通貨の合法化を達成することもできるだろうが。

政府貨幣を成功させるには: カギは減価

mig76frの投稿 (2009年 2月 9日)

さて、このような議論を踏まえて、政府貨幣を成功にするにはどのようにすればよいかについて、具体的にかつ戦略的に考えてみたい。なお、詳しい理論的説明を読みたくない人は、赤字の部分だけ読んでもらってもかまわない。 1) 流動性の重要性についての議論を活発に実施 昨日書いたヴェルグルの例でも明らかだが、「カネは天下の回りモノ」であってなんぼの存在である。政府貨幣についても、たとえば特別給付金として1万5000円各人に単にバラ撒いても、そのぶん1万5000円ぶん預金が増え、日本円と同じように何回か流通して政府に税金として戻ってくるだけの結果に終わっては何の意味もない。ヴェルグルでは通貨供給量は平均でわずか5400シリングだったにもかかわらず、毎日1回以上の取引を仲介したことで250万シリングもの経済効果を生み出したが、とにかく日本円とは違って退蔵することができず、絶えず流通する仕組みの通貨を導入することで経済の安定化を目指すという議論を行い、世論がそれについて来るようになるまで待つ必要があるだろう。つまり、10兆円バラ撒いても2回しか取引を行わなければ経済効果は20兆円に過ぎないが、バラ撒き額が1兆円でも100回取引を行えば100兆円の効果を生むことになり、そのためには減価する貨幣という、歴史的にも実績のある制度を実施する必要があるというように世論を誘導するわけである。 2) 携帯電話業者などと提携して、電子通貨決済機能つきの携帯電話端末を大量生産し、その開発費用は政府が全部負担。 減価する貨幣を効率よく市中に流通させるには電子化が不可欠だが、そのための費用は最小化する必要がある。地上波デジタル化でもこれだけ世論の反発が強い現状を考えると(世界の主要先進国が軒並み地上デジタル化を進めているのに、日本だけ乗り遅れたら技術立国として恥ずかしいとは一般日本人は考えない)、今や高齢者を含めて日本人や日本在住の外国人の大多数が保有している携帯電話に電子通貨決済機能を搭載させ、メールを送ったりSUICAを改札口にタッチしたりする感覚で、個人間でも電子通貨決済ができるシステムを開発する。この際に住基カードを絡めると世論の反発を受けるので(住基カードそのものに対する反発のほか、住基カードベースの地域通貨の失敗もその理由にある)、住基カードは今回は関連付けさせないようにする(総務省が怒るかもしれないが、年齢認証だけであれば独自カードにする必要のないTASPOの開発が必要だった経緯を見れば明らか)。 3) このように政府貨幣に必要なインフラや世論が十分に整備されるのを待って、減価する貨幣として政府貨幣を導入 具体的には、以前紹介したオランダのNGO「ストロハルム」によるフォメントプロジェクトのような形で、公共事業での支払いの一部を電子通貨建てにするという形での運営が可能だろう。仮に流通額がわずか1兆円(ちなみに日本円の流通額は現金だけでも70兆円以上、普通預金や当座預金を含めると500兆円近く)しかなくても、毎日1回のペースでこの減価する貨幣が流通すれば365兆円もの経済効果を生むことになる。ちなみに、日本のGDPはここ20年近く、500兆円前後で推移している。 いずれにしろ、性急に実施して失敗するぐらいなら、時間をかけて機が熟すのを待つ必要があることだけは確かであろう。


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