減価する貨幣とは?

成功する政府貨幣: ヴェルグルから学ぶ

Posted on: 2009年 2月 8日

最近話題になっている政府貨幣だが、成功事例として導入したいのであれば、やはり過去の成功事例から学ぶ必要があるだろう。すでにこのブログでも紹介した「エンデの遺言」(13分56秒~18分31秒)でも取り上げられている、オーストリア・チロル州のヴェルグル(Wörgl)の事例について、ここでは詳しく紹介したい。

ヴェルグル自体は、もともとはアルプス山脈のふもとにある寒村にしか過ぎなかったが、19世紀中葉にオーストリア西部からウィーンに向けての路線と、当時はオーストリア帝国領だったトリエステから国境を越えてドイツはバイエルンの首都ミュンヘンを結ぶ鉄道路線の交差点になったことから、交通の要衝として栄え始め、繊維工場などがこの地に建設される。1900年当時でも650人程度にしか過ぎなかった人口は1910年時点で4000人以上に増え、各種産業を備えた町として栄えるようになる。

しかし、当然のことながら、この当時世界を襲っていた大恐慌はこの町にも暗い影を投げかけていた。鉄道も従業員を100人以上減らし、繊維工場に至っては閉鎖にまで追い込まれ、これにより400人程度いた従業員がほぼ全て失業することになった。5000人弱しかいない町でこれだけのことが起こった場合、経済がマヒ状態になることは想像に難くない。実際、町役場は破産状態だった。11万8000シリングほど未納金があったのだが、誰もお金を持っていない状態では税金を徴収することもできなかったのである。

こんな状態であった1931年に町長になったのが、シルビオ・ゲゼルの理論に詳しかったミヒャエル・ウンターグッゲンベルガー(Michael Unterguggenberger)である。彼は翌1932年7月末に「労働証明書」という地域通貨を作成し、町役場の職員に対して1000シリングを地域通貨で支払った。

この地域通貨は、表面にスタンプを貼るスペースが設けられており、新しい月になるたびに額面の1/100にあたるスタンプを貼る必要があった。ということは、仮にこの貨幣を1年間タンス預金していた場合、12%もの額が失われることになるため、誰もこの貨幣を手元に残しておこうとは思わず、むしろ次から次に消費することになり、そして未払いの税金を払うためにも使われた。この労働証明書の導入後わずか3日後に、町役場の職員が「1000シリングしか発行していないのに5100シリングも労働証明書で税金が入ってきました! 偽造に違いありません」と町長にあわてて報告したらしいが、同じ紙幣が町役場と町内の事業所をわずか数日で何往復もしたと考えると、別に不思議ではないだろう。

このようにして、翌1933年の9月に中央銀行によって禁止されるまでの13ヶ月の間に、平均で5400シリングほど流通していたこの労働証明書により、250万シリングもの経済効果が生まれた。当然失業率も下がり、地域経済が活性化した。人によっては、手元に置いておいてスタンプの購入代金を負担させられるぐらいなら、と税金の前払いに応じた人までいたらしい。

なお、2006年にこの歴史を記念して、このようなモニュメント(ドイツ語)が作られ、駅前から中心商店街を通る道の石畳に掲げられている。また、この歴史を後世に伝えるべく、ウンターグッゲンベルガー研究所(ドイツ語)が設立され、減価する貨幣や補完通貨についてさまざまな情報を提供している。

これらの事例を踏まえて、2009年の日本で政府貨幣を導入するのであれば具体的にどのようにすべきかについて、次回の投稿で紹介したい。

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コメント / トラックバック2件 to "成功する政府貨幣: ヴェルグルから学ぶ"

[…] 昨日書いたヴェルグルの例でも明らかだが、「カネは天下の回りモノ」であってなんぼの存在である。政府貨幣についても、たとえば特別給付金として1万5000円各人に単にバラ撒いても、そのぶん1万5000円ぶん預金が増え、日本円と同じように何回か流通して政府に税金として戻ってくるだけの結果に終わっては何の意味もない。ヴェルグルでは通貨供給量は平均でわずか5400シリングだったにもかかわらず、毎日1回以上の取引を仲介したことで250万シリングもの経済効果を生み出したが、とにかく日本円とは違って退蔵することができず、絶えず流通する仕組みの通貨を導入することで経済の安定化を目指すという議論を行い、世論がそれについて来るようになるまで待つ必要があるだろう。つまり、10兆円バラ撒いても2回しか取引を行わなければ経済効果は20兆円に過ぎないが、バラ撒き額が1兆円でも100回取引を行えば100兆円の効果を生むことになり、そのためには減価する貨幣という、歴史的にも実績のある制度を実施する必要があるというように世論を誘導するわけである。 […]

[…] この場合には、A氏>八百屋>レタス農家>酒蔵>コメ農家>ガソリンスタンドと、5回取引が行われていることになるので、たとえば1000円でも5000円の経済効果を地域にもたらすことが可能である。仮に先ほど紹介した1兆円が全てこのような形で循環したとすると、5兆円の経済効果を生み出すことができる。地域振興券では1兆円発行しても実際には数千億円程度の経済効果しか出ない場合があることを考えると、大きな違いがあると言えるだろう。流動性の重要性についてはヴェルグルの事例ですでに説明しているが、やはり単にお金をバラ撒くだけではなく、流動性を最大化するような形でバラ撒くことを考えたほうがよいのではないだろうか。 […]

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