減価する貨幣とは?

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以前こちらでG20へ向けた通貨改革運動を紹介したが、その日本語訳が公開されたのでここでも紹介したい。

http://www.anti-rothschild.net/material/40.html

いくつか論点をまとめると、

* 信用創造の廃止(民間銀行は、手元にある担保のぶんだけしか通貨を発行できなくなる)
* 既存の国家から独立した国際通貨を設立した上で、米ドルやユーロなど既存の通貨と併存させる。

この文章を作成したジェームス・ロバートソンは英国の出身だが、英国経済(特にロンドン経済)は金融に特化している。経済危機の前は世界中からカ ネを集めては投機で儲けていた紳士がロンドン経済を回していたが、経済危機が一旦起こるやそのような繁栄の基盤は、そんな英国経済の通貨であるポンドよろ しく砂上の楼閣と化してしまったのである。

私としては、ここで根源的な疑問を投げかけたい。私たちの生活には貨幣は欠かせないが、この貨幣を営利活動の目的とすることは、果たして許される のだろうか。たとえば欧州では、鉄道会社や高速道路、電力網などは民間企業にはふさわしくない活動であるため国家や州政府などが管理しているが、これらす べてのサービスを利用するのに不可欠な貨幣についてはなぜ民間銀行による営利活動が許されているのだろうか。

現在の問題を解決するには、より根本的な疑念を呈する必要があると思う。

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日本では地域振興券も地域通貨も同じものとして混同されているようだが、両者は似て非なるものである。これについて、説明したい。

地域振興券については、1999年に出されたものが有名だが、これの流れについて考えてみよう。

  1. 政府が各地方自治体に、発行額に応じた資金を支給。
  2. 自治体はこの資金を担保に、額面1000円の地域振興券を対象者1人あたり20枚発行し各家庭に配布。
  3. 各家庭はこの地域振興券で、地元商店で買い物を行う。
  4. 地元商店はこの地域振興券を現金化(他の商店で使うことは禁じられているため)。

ということは、地域振興券で起こった経済効果は、結局地域振興券の発行額ぶんでしかない。たとえばこの方式で1兆円バラ撒いても、1兆円以上の効果は望めないのである。また、この地域振興券が来たことで、ふだんは毎月10万円消費する高齢者が12万円消費すれば経済効果はあったと言えるが、消費行動を変えずに余った2万円をタンス預金するなり銀行に預けるなりした場合、この高齢者による経済効果はゼロと言える。極論すれば、日本人全員が余った2万円を預金に回した場合、政府が1兆円以上使っても経済効果はゼロという、本末転倒な事態さえあり得るのだ。

最近この地域振興券が再度もてはやされ、特にプレミアムつきの商品券(たとえば5000円で5500円ぶんの地域振興券を買うことができて、それで地元商店で5500円ぶんの買い物を行い、地元商店はこの受け取った振興券を現金化するというもの)が流行っているらしいが、当然ながらこういうシステムでは500円ぶんの赤字になるため、この赤字を地元自治体が負担する例が多い。結局これでは、単に地元商店にカネさえ流れれば万々歳で、自治体がいくら赤字になろうが知ったことではないという無責任さが蔓延することになる。特にどこの自治体も多かれ少なかれ財政赤字に苦しんでいるときに、このように自治体からカネをたかって地元商店街万々歳みたいな構図を作ることは、倫理的にも経済的にもあまりよろしくないだろう。

地域通貨の場合、この構造自体がだいぶ違う。たとえば、仮に地域振興券を地域通貨のようにした場合には、このような例が可能となる。

  1. 政府が各地方自治体に、発行額に応じた資金を支給。
  2. 自治体はこの資金を担保に、額面1000円の地域通貨で対象者1人あたり20枚発行し各家庭に配布。
  3. 地域通貨を受け取ったA氏は、この地域通貨で地元の八百屋で買い物。
  4. 地元の八百屋は地域通貨でレタスを農家から仕入れ。
  5. 地元のレタス農家は地域通貨で地元産の日本酒を購入。
  6. 地元の酒蔵は地域通貨で原材料のコメを地元の農家から仕入れ。
  7. 地元のコメ農家はこの地域通貨でガソリンを購入。
  8. ガソリンスタンドは地域通貨を日本円に交換。

この場合には、A氏>八百屋>レタス農家>酒蔵>コメ農家>ガソリンスタンドと、5回取引が行われていることになるので、たとえば1000円でも5000円の経済効果を地域にもたらすことが可能である。仮に先ほど紹介した1兆円が全てこのような形で循環したとすると、5兆円の経済効果を生み出すことができる(もちろん、八百屋が直接現金化する場合もあるので、その場合には経済効果は1000円だけだが)。地域振興券では1兆円発行しても実際には数千億円程度の経済効果しか出ない場合があることを考えると、大きな違いがあると言えるだろう。流動性の重要性についてはヴェルグルの事例ですでに説明しているが、やはり単にお金をバラ撒くだけではなく、流動性を最大化するような形でバラ撒くことを考えたほうがよいのではないだろうか。なお、バークシェア(米国マサチューセッツ州)やキームガウアー(ドイツ・バイエルン州)など世界的に有名な地域通貨では、現金化の際に手数料を取ることでできるだけ地域内循環を促進している。

あと、現在の法律では「紙幣類似証券取締法」により地域通貨の流通がある程度制限されているが、これについても官庁のさじ加減一つの問題であり、官庁次第ではどうにでもなると言えるだろう。もちろん、あくまでも法律である以上、地域通貨に積極的な政党がこの法律を廃止したり改正したりして、地域通貨の合法化を達成することもできるだろうが。

4月にロンドンで開催されるG20会議に向けて、ジェームス・ロバートソン書いたG20各国政府に対する通貨改革の提言書が先ほど届いた。とりあえず概略を紹介したい。なお、全文はこちら(英語)で読める。

彼の改革案は、以下の2つから構成されている。

(1) 国レベルでの通貨改革については、以下の方法で国の通貨の管理を国の手に取り戻す。
(a) 国有化された中央銀行に、債務なしで公的通貨を全て供給する義務を移転させる
(b) 商業銀行を含むそれ以外の者に対して、信用創造を禁止する

(2) 国際的な通貨改革では、債務なしでの国際通貨を導入。
(a) 新しい国際通貨当局がこの国際通貨を創造。
(b) グローバル経済における国際貿易に対して、より効率的で安定し、公正な基盤を提供。
(c) 現在の各国通貨やユーロと共存。
(d) しかし、これらの既存通貨は国際通貨としては使わない。

国内的な改革については実現性に疑問の余地が残るが(信用創造を認めなかったら、そもそも商業銀行の経営基盤が危うくなる)、少なくても国際貿易に関して新しい通貨を導入するという案は悪くはない。ただ、この原案を叩き台として、より洗練された通貨改革案を作る必要があることだけは確かだが…。